原題 | EYE IN THE SKY |
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制作年・国 | 2015年 イギリス |
上映時間 | 1時間42分 |
監督 | ギャビン・フッド |
出演 | ヘレン・ミレン、アーロン・ポール、イアン・グレン、フィービー・フォックス、モニカ・ドラン、アラン・リックマン他 |
公開日、上映劇場 | 2017年1月14日(土)~大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズ西宮OS、TOHOシネマズ二条他全国ロードショー |
~ドローン登場で様変わりした戦争映画~
シニアファンにとって“なじみのアメリカ映画”は西部劇、戦争映画に史劇になるだろう。映画もまた時代の変遷により様々に変化しているが「変化」をまざまざと実感したのは“ドローン映画”の登場だ。昨年公開された『ドローン・オブ・ウォー』(14米、アンドリュー・ニコル監督)に驚いた。
一室にこもってドローン(無人偵察機)を操作している操縦士(イーサン・ホーク)が休憩時間に外出、顔見知りに「今、アルカイダを5人ばかり、殺してきた」と日常会話のように話す。これがホントの話。戦争がそれほど何気ない日常行為になるなんて…。
だが、上空6000メートルを飛ぶ“空の目”ドローンを操縦する兵士も、指令を出す上官も様々な葛藤は免れない。ストレスにさらされ、精神に重大な影響を与える実態も強く感じられた。
イギリス・ロンドン。軍諜報機関の将校キャサリン大佐(ヘレン・ミレン)は国防相フランク中将(アラン・リックマン)と協力し、米軍の最新鋭ドローン偵察機を駆使して合同でテロリスト捕獲作戦を指揮している。上空を飛ぶリーパー航空機がある日、ケニア・ナイロビの隠れ家に凶悪組織アル・シャバブのテロリストたちの存在を突き止める。
その映像が瞬時に英米、それにケニアの司令官たちがいる会議室のスクリーンに映し出されるのだから、便利になったというか、身近になったというか。リアルな戦争でも、まるでテレビゲーム感覚だ。
イラクがクエートに侵攻した1990年、サウジアラビアが危機に陥った時、米軍が“砂漠の嵐”作戦を開始した。この湾岸戦争はテレビで世界に中継され、米軍の空爆の様子がリアルタイムで見られた。その時、上空のレーダーから標的を捉えた映像は、まさにテレビゲームそのものだった。
その頃から、すでに“誤爆”が問題視されてもいた。この映画では誤爆ではないものの、ミサイルを発射するかどうか、という決断をするかどうかをめぐって現場と上層部が対立する。誰が“最後の決断”を下すのか、も。
テロリストたちが大規模な自爆テロを目論んでいると分かり、ネバダ州の米軍基地では新人のドローン・パイロット、スティーブ・ワッツ(アーロン・ポール)は大佐の指令を受け、強力なミサイルの発射準備に入る。
テレビゲームのように見えた“戦争”にここで人間の血が通った気がした。現場が判断を下すに当たって、上層部とりわけ政治家の「GO」指令を欲しがり、出張先まで追いかけるあたり、民間人の被害を憂慮する気持ち(責任逃れ)がにじんだ。
ミサイル発射が近づいたその時、殺傷圏内にパン売りの幼い少女の姿が画面に映る。なんと…。民間人の巻き添えを嫌う軍人、政治家たちの間でも様々に意見が別れる。少女の命を救うか、テロリスト殺害か…。究極の選択は果たして…。 画面内でのんきにパンを売る少女に「早く逃げろよ!」と声をかけたくなる。こんな戦争映画も珍しい。内部では「一人の少女を救ったら、テロリストたちの大量虐殺が起きる」という意見が多数を占める…。
戦争映画は映画(絵空事)だから面白い。映画体験で言えば、中学時代に前売り券を買って見た大作『史上最大の作戦』(62)が印象深い。人類史上最悪の仇役ナチス・ドイツを相手に、英米仏の連合軍がノルマンジー上陸作戦から反撃に転じる“正義のドラマ”は、見ごたえたっぷりだった。 極悪ナチスを相手にする戦争映画は痛快だった。傑作も数多く『ナバロンの要塞』(61)、『バルジ大作戦』(65)、『空軍大戦略』(69)、『パットン大戦車軍団』(70)。
60年代、米ソ冷戦時代は「007」などのスパイものに主役の座を明け渡し、ベトナム戦争時代はアメリカが鋭く“反省”を迫られた。
「9・11」NY同時多発テロ以降の対イスラム戦争は当然、善悪が明瞭でなく、戦争映画も迫力を欠いた。今、アメリカだけでなく、イスラム国などテロリスト集団が勢いづいている時代、映画の敵役には事欠かない。『アイ・イン・ザ・スカイ』は、ドローンという新しい武器を駆使して新機軸を打ち出した“現代”の戦争映画。そこにはかつての戦争映画にはなかった「善悪の判断」や「道徳的ジレンマ」にまで踏み込んでいた。
【安永五郎】
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